高台のアパートで、毎日タンゴを聴きながら
六甲からの夜景を楽しんでいました。
レッスンも回数を増やし、社交ダンスの魅力に
少しずつはまっていきました。
「毎日、踊りたいな」 「上手になりたいな」といつも思い
教室に通い続けていましたが、
その結果、パンと牛乳だけの生活になってしまったのです。
金欠、極貧状態。
そんなある日、教室に赤い服を着た女の子が「見学いいですか?」
と入って来られました。「何だか、私の時と同じで何気なくフラフラと
何かに引き付けられるようにここに来られたのかな」と
そんな気がしました。その子は、私の踊っている姿をしばらく見てくれてましたが、
少し寂しそうで「憂いがあるな」と感じました。
私は、近づいていき、声をかけました。
その子は、にっこりと笑ったので私はびっくりとして
今までのは何だったんだろうと思いながら
しばらくお話をしました。徐々に楽しくなってきました。
それから時々喫茶店で会ってお話をするようになりました。
そんなある時、ダンスの練習を終えて六甲駅で下車すると、
改札の前で赤い服を着た彼女が立っていました。
何か手にぶら下げていて、私が近づくと
「はい、これ」と手提げ袋を渡してくれて
「またね」と急ぐように電車に乗って
三宮方面へ帰っていきました。
私は何が起きたのだろうと思いながら
袋の中を開けてみると、そこには
お米、味噌、海苔が入っていたのです。
私は、胸がジーンとしました。
「ありがとう」と心で言って
家路に向かいました。
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